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東京高等裁判所 昭和57年(行コ)20号 判決 1984年7月18日

控訴人(被告) 東松山税務署長

被控訴人(原告) 杉田元重

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする。

事実

一  申立

控訴人指定代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴人訴訟代理人は控訴棄却の判決を求めた。

二  主張

次に付加するほかは、原判決事実欄の「第二 当事者の主張」(「物件目録(一)、(二)」「別表(一)ないし(三)」を含む)に記載のとおりであるから、これを引用する(但し、原判決六丁表七行目の「有限会社三協不動産」のあとに「(以下「三協不動産」という。)」を加え、同八丁裏四行目の「交換取得土地」とあるのを「交換譲渡土地」と、同一八丁表三、四行目の「数十億」とあるのを「数十億円」と、同五、六行目の「交換譲渡」とあるのを「交換譲渡土地」と各改める。

(中略)

(控訴人)

1  交換による譲渡所得に対する課税の趣旨について

(一) 所得税法三六条に定める譲渡所得に対する課税の趣旨は、資産の値上りによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得とし、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に清算して課税するものであり、売買により資産の移転が対価の受入れを伴うときは、値上り利益が対価のうちに具体化されるので、所得税法はこれを課税の対象として捕えているのであり、交換等についてもこれと同様に増加益を課税の対象としているのである。すなわち、一般の売買の場合には対価である金銭等が直ちに譲渡所得の収入金額となるのに対し、交換の場合は互いに金銭の所有権でない財産権を移転することであり、売買に比しいわば金銭の授受を省略した形の取引であるから、金銭等に代わるべき取得物件の価額が譲渡所得の収入金額となるのである。

(二) 資産たる土地の譲渡にかかる所得課税は、資産の値上りによる増加益に対するものであるから、個々の具体的取引における特別な事情による場合は別として、全国的な場合はもとより当該土地を含む地域において土地投機等のブームを呼んでおり、投機的・思惑的要因により価額が形成された場合においても、右価額が多数の売手と買手の存在により形成された市場価額である限りそれが客観的交換価値となるのであり、当然右価額が所得税法三六条二項に定める価額になるものというべきである。そうでないと、資産を売買により譲渡した場合と、右資産を右売買の代金と同じ価値を有する資産で交換譲渡した場合とで、同じ対価である利益を受けたにもかかわらず、右交換により取得した資産の価額が投機的・思惑的要因により形成された価額であるとして、その価額に基づく課税をしない場合には、同じ対価である利益を受けたにもかかわらず、その譲渡所得が異ることになり、租税の公平の負担という原則に反することにもなるのである。

なお、所得税法三六条二項に定める価額は、権利を取得し利益を享受する時を基準とするのであり、たとえその時に投機等により価額が高騰している場合であつても、その価額が同項に定める価額となることはいうまでもない。

2  交換取得土地の価額について

阪東商事が本件交換のために交換取得土地を買入れた相手方である三協不動産らは、当該売買は通常の価格によつて取引がされたものであると認識しているのみならず、右の者のなかには、当該売買価額は近隣の売買実例価額に比して安かつたと認識している者もいる。してみると、当該売買における阪東商事の買入価額が、その当時の時価に比して特に高額であつたなどとは到底考えられず、当該売買はごく普通の取引であつたということができる。したがつて、評価すべき土地が、評価すべき日の直前に売買がされた売買実例地であるという評価上極めて条件のよい本件においては、むしろ積極的に当該売買実例を右評価に援用すべきである。

また、阪東商事は、本件交換により取得した交換譲渡土地を、その取得と同時に熊谷観光へ三億円で売却しているが、この行為は、本件交換の経緯等からみても明らかなとおり、熊谷観光がゴルフ場用地として買収するための一連の行為として、それまでの阪東商事の三協不動産らからの交換取得土地の買入れ及び被控訴人と阪東商事との間における本件交換の各行為と一体をなすものであり、仮に被控訴人が熊谷観光から直接の交換譲渡土地の買入れの申出に対し、その譲渡の対価として代替地を提供することを条件とせず、金銭により全額清算することを承諾したならば、被控訴人に右売却価額と同程度の金額の収入があつたであろうことは容易に推認されるところである。このような事情からすれば、阪東商事は、本件交換において、被控訴人に対し交換取得土地を提供するとともに交換差金等として二、五〇〇万円の金員を支払つたのであるから、右売却価額三億円から右交換差金等の金額二、五〇〇万円を差引いた残額二億七、五〇〇万円をもつて交換取得土地の本件交換時における価額(時価)とみることも可能である。

右の点を考慮すれば、交換取得土地の本件交換当時の価額は、控訴人の主張額(一億二、九四三万五、〇〇〇円)が極めて一般的な価額であり、客観的交換価値として十分に通用しうるものであることが明らかである。

3  交換取得土地と控訴人主張の売買実例地及び地価公示地との公法上の規制、自然条件、画地条件、接近条件、土地の利用状況等の点の比較は、別表(四)ないし(六)のとおりであつて、交換取得土地の右諸条件は右の各売買実例地等の右諸条件とほぼ同じであり、取引時期及び取引価額が極めて近似している。

したがつて、阪東商事が交換取得土地を買入れた取引は、特殊異例なものではなく、この取引によつて形成された価額は多数の売手と買手によつて形成された市場価額と合致するといえるから、これが客観的交換価値となるのであり、当然所得税法三六条二項に定める価額になるというべきである。

(被控訴人)

1の(一)の事実は認める。同(二)の事実は否認する。

2の事実は否認する。

ちなみに、被控訴人は生活上の必要から、昭和五六年一〇月三日交換取得土地のうち原判決別紙物件目録(二)記載<3>ないし<6>の土地を荻窪久男に売渡したが、その売買代金は一、六三〇万八、〇〇〇円であつた。右土地は、阪東商事が昭和四八年三月二日有限会社東海ハウジングから代金三、三九七万五、〇〇〇円で買受け、本件交換において被控訴人に譲渡したのである。

3の事実中、別表(四)ないし(六)の交換取得土地にかかる(1)ないし(8)の欄記載の事実は認めるが、その余の事実は否認する。

交換取得土地のうち、前記目録(二)の<7>ないし<10>の土地は、互に距離的に近いが、三か所に分散しており、そのうち<7>ないし<9>の各土地には取付道路もなく、旧馬入れ道がわずかに入り込んでいるのみであり、またその地面は近くの公道面に比較して五〇センチメートルないし一〇〇センチメートル低い湿潤地であり、排水の方途もなく、当面、山林以外に利用する方法がない土地である。<10>の土地は、公道に面しているが、これを山林以外の用途に使用するには、同土地の地価に数倍する造成費用を要する。

また、地価公示地の実際の取引価額は、公示価格より高くなることは公知の事実であるところ、別表(五)記載の地価公示地の一平方メートル当たりの地価公示価格(二万一、五〇〇円)の方が、交換取得土地のうち前記目録(二)の<7>ないし<10>の土地の一平方メートル当たりの取引価額(一万二、一一〇円)より著しく高額であるから、当然に両者の土地の条件が著しく異つていることが認められなければならない。したがつて、右地価公示地の公示価格をもつて交換取得土地のうち同目録(二)の<7>ないし<10>の価額を算定することはできないというべきである。

三  証拠<省略>

理由

一  請求原因1及び2の事実(本件処分の内容、不服申立の経緯など)は当事者間に争いがない。

二  被控訴人が昭和四八年三月一二日阪東商事に対し、被控訴人所有の交換譲渡土地を譲渡し、その対価として阪東商事から同会社所有の交換取得土地及び現金二、五〇〇万円を取得したこと、被控訴人の昭和四八年分の譲渡所得の金額の計算上収入金額とすべきものが交換取得土地の本件交換の時における価額と現金二、五〇〇万円の合計額に相当することは当事者間に争いがない。

三  控訴人は交換取得土地の昭和四八年三月一二日当時における価額は合計一億二、九四三万五、〇〇〇円であると主張するので、以下この点につき審案する。

1  阪東商事がいずれも本件交換の直前ころである昭和四八年二月二二日三協不動産から交換取得土地のうち原判決別紙物件目録(二)の<1>、<2>の土地(地積合計五、五五七平方メートル)を代金合計四、七〇〇万円(一平方メートル当たり八、四五七円)で、同年三月二日有限会社東海ハウジングから同目録(二)の<3>ないし<6>の土地(地積合計四、四九〇平方メートル)を代金合計三、三九七万五、〇〇〇円(一平方メートル当たり七、五六六円)で、同年二月二一日大久保松治から同目録(二)の<7>ないし<10>の土地(地積合計二、六三九平方メートル)を代金合計三、一九六万円(一平方メートル当たり一万二、一一〇円)で、同年二月二二日寺田康二から同目録(二)の<11>の土地(地積二、〇六六平方メートル)を代金一、六五〇万円(一平方メートル当たり七、九八六円)で買入れたことは当事者間に争いがなく、控訴人はこれを売買実例として交換取得土地の価額をこれと同額と認定していることが明らかである。

2  土地の価額を評価する場合において、評価すべき土地そのものについて、その評価すべき時点に近い時期に売買取引が行われており、それが正常な取引の範囲にあるときには、その売買価額をもつて当該土地の価額と認定するのが相当である。換言すれば、たとえ右取引の行われたのが全国的な場合はもとより当該土地を含む地域において土地投機等の諸事情により価額が高騰している場合であつても、当時大多数の人々の間でその価額ならば、さらに他の財貨と交換できる事情にある以上、右売買取引を正常な取引の範囲にあるという妨げなく、その取引において成立した価額をもつて当該土地の価額と認定することができるというべきである。これに反して、右取引につき、投機的・思惑的な買進みの事情が認められる場合には、右取引により成立した価額をもつて直ちに右土地の価額と認定することはできないといわなければならない。

3  そこで進んで、阪東商事が三協不動産らから交換取得土地を買入れた取引が正常の取引の範囲にあるか否かについて検討する。

(一)  成立に争いのない甲第二、第一二ないし第二二号証、第二七号証の一ないし九、乙第三、第四、第六号証、第四四ないし第四八号証、原審証人栗原金次の証言(但し、後記措信しない部分を除く。)及びこれにより成立を認める甲第二三号証、原審証人本郷良一の証言及びこれにより成立を認める乙第二、第五、第七、第八号証、当審証人渡辺克己の証言及びこれにより成立を認める乙第四二、第四三号証、原審における被控訴人本人尋問の結果(但し、後記措信しない部分を除く。)によれば、以下の事実を認めることができる。

(1) 熊谷観光は昭和三七年一月ころから埼玉県比企郡滑川村大字福田地内において、高根カントリークラブなるゴルフ場(一八ホール)を経営していたが、昭和四七年一月ころ同地内にさらに九ホールのゴルフ場を増設することを計画し、その用地の買収に取りかかつた。熊谷観光の右増設計画は、昭和四八年一一月ころまでに用地買収を達成し、同四九年九月ころまでに工事を完成し、同年一〇月開場することを予定するものであつたため、熊谷観光は右買収予定地内に被控訴人所有の交換譲渡土地が存在したので、昭和四七年夏ころ被控訴人に対し、数回にわたり反当たり一八〇万円という当時としては相当高額の代価での同土地の買収方を申入れたけれども、被控訴人は同土地は先祖代々承継したものであることから、これを手放す意思はないとして、右申入れをすべて拒絶した。

(2) 被控訴人は阪東商事の関連会社である建設業株式会社阪東に勤務したことがあり、阪東商事の取締役栗原金次の亡弟と姻戚関係にあつたことから、栗原金次とは旧知の間柄であつた。阪東商事及びその関連会社である株式会社阪東は、それぞれ、かねてから熊谷観光の右買収予定地内に、交換譲渡土地以外に、山林を所有していたが、阪東商事は昭和四七年五月二五日うち二筆計四反二七歩を代金七三六万二、〇〇〇円で、同四八年一月一九日二筆計一〇、二一三・二三平方メートルを代金七、七二四円で熊谷観光に売渡し、株式会社阪東は昭和四七年二二日うち六筆計七、三七一平方メートルを代金一、二七八万九、七〇〇円で熊谷観光に売渡した。

(3) 阪東商事の栗原金次は被控訴人に対し、交換譲渡土地を熊谷観光に売渡すよう説得を重ねたところ、被控訴人は昭和四八年一月ころに至り阪東商事に対し、交換譲渡土地に近い位置にあつて地積がこれと同等の土地とを交換することであれば、交換譲渡土地を手放してもよい旨を告げた。しかし、阪東商事は右交換に供する土地を所有していなかつたため、急遽被控訴人の希望にそう土地を買収取得することを企図するに至つた。そして、阪東商事は昭和四八年二月ころ熊谷観光に対し、阪東商事において交換譲渡土地を被控訴人から取得し、これを代金計三億円で売渡したい旨を申入れたところ、熊谷観光は右代価は相場に比して高額に過ぎると考えたが、結局これに応じた。熊谷観光の当時の右用地買収の進歩状況については、交換譲渡土地のみを残していたわけではなく、岩崎後太郎、杉浦まつ、小林政雄、大栄商事株式会社各所有の土地二一筆一三、〇九五平方メートルについてまだ買収しておらず、結局、岩崎信太郎からは昭和四八年三月七日に、杉浦まつからは同年五月一一日に、小林政雄からは同年七月四日に、大栄商事株式会社からは同年一一月二一日にそれぞれ各所有土地を買収した。

(4) 熊谷観光の昭和四八年二月ころ当時における右増設分の会員資格保証金預証の発行状況については、全部発行済みであつたわけではなく、昭和四七年一二月に四〇〇口を、同五八年八月に二〇〇口を、同四九年二月に二〇〇口を発行した状況であつた。そして、阪東商事は、交換譲渡土地を熊谷観光に対して三億円で売却できる見込が立つたことから、いわゆる不動産ブローカーから持込まれた物件である交換取得土地をほぼいずれも売主側の言い値どおりの値段で、前記のように三協不動産らから交換取得土地を代金合計一億二、九四三万五、〇〇〇円で買入れた。しかし、交換取得土地は交換譲渡土地から離れた位置に四か所に分散して所在し、交通も不便であつて、山林としての価値も交換譲渡土地に比較して見劣りするうえ、合計地積の点でも同等の地積に至らず、加えて被控訴人としては交換譲渡土地は、実際には、公簿面積より相当に広いと考えていたことなどの事情から、阪東商事と被控訴人の間において、当初交換取得土地に税金分として、二、四〇〇万円を付加して交換する約定であつたものを、最終的には、右の付加金を二、五〇〇万円に増額することで妥結し、昭和四八年三月一二日本件交換が成立した。そして、阪東商事は同日直ちに熊谷観光に対し、交換譲渡土地を代金合計三億円で売渡した。

(5) 三協不動産は前記目録(二)の<1>、<2>の土地を右売買の直前ころに転売する目的で、板間利夫から代金四、〇〇〇万円で買入れた。また有限会社東海ハウジングは同目録(二)の<3>ないし<6>の土地を、昭和四八年二月ころ一平方メートル当たり七、五七五円(坪当たり二万五、〇〇〇円)程度で他に転売する目的で、小谷田某から買入れた。大久保松治は同目録(二)の<7>ないし<10>の土地を、昭和一六年ころ以降これを所有していたが、住居建築資金等を得る必要があつたので、一平方メートル当たり一万五、一五一円(坪当たり五万円)で売却しようと目論んでいた。

以上の事実が認められる。

原審証人栗原金次の証言、原審における被控訴人本人尋問の結果中には、阪東商事は昭和四七年末ころ熊谷観光から「熊谷観光は、右買収予定地内の土地は交換譲渡土地を除いてすべて買収を済ませたが、昭和四八年秋には前記ゴルフ場を開場する予定で既に会員資格保証金預証を発行してしまつており、増設工事をする関係上、同年三月ころまでに交換譲渡土地を確保しなければ、ゴルフ場の開場が不可能となつて多大の損害を蒙ることが予想されるから、金に糸目はつけないから、交換譲渡土地を確保してもらいたい旨を告げてこれを依頼した。」との趣旨の部分があるが、前示認定事実ことに前掲乙第四二、第四三号証と対比するときは、これをたやすく措信し難い。

(二)  前掲乙第七号証、成立に争いのない乙第九、第一〇号証、第一五号証の一、二、当審証人渡辺克己の証言及びこれにより書込み部分の成立を認め、その余の部分の成立に争いのない乙第二〇号証、原審証人本郷良一の証言、弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(1) 交換取得土地のうち前記目録(二)の<1>ないし<6>の土地の所在する川本村大字本田地域において、(ア)昭和四八年二月二六日川本村大字本田字中篠場一、三九五番一、同所一、三九六番二及び三の山林合計二、五三〇平方メートルが代金一平方メートル当たり六、〇五五円で売買され、次いで同日代金一平方メートル当たり七、五六九円で転売された、(イ)同年二月二二日同所字四反歩二、九七一番、同所二、九七二番、同所二、九九〇番の山林合計五、〇七五平方メートルが代金一平方メートル当たり六、九六〇円で売買され、次いで同年四月二日代金一平方メートル当たり七、七一七円で転売された、(ウ)同年四月二〇日同所字上本田前五、二九一番一、同番四ないし六及び五、三一三番二の山林合計三、二三二平方メートルが代金一平方メートル当たり八、四六四円で売買され、次いで同月二七日代金一平方メートル当たり一万一、三三五円で売買された。

(2) 前記目録(二)の<7>ないし<10>の土地(市街化区域内のもの)の所在する江南村地域において、(エ)昭和四八年五月三〇日江南村大字樋春字悪場南二、〇七五番三及び四の山林合計二、九七〇平方メートル(但し、市街化区域内のもの)が代金一平方メートル当たり一万八、一五一円で売買された、(オ)同年二月二日同村小江川字谷田一、八八五番地の山林一、四三八平方メートル(但し、市街化調整区域内のもの)が代金一平方メートル当たり九、〇三五円で売買され、次いで同月三日代金一平方メートル当たり一万円で転売された、(カ)同年九月一〇日同所字谷田一、八九一番二及び一、八九二番の山林合計一、九七三平方メートル(但し、市街化調整区域内のもの)が代金一平方メートル九、三二五円で売買された。

(3) 前記目録(二)の<11>の土地(市街化調整区域内のもの)の所在する江南村地域において、(キ)昭和四三年四月七日江南村大字小江川字新山一、六一〇番地の山林約二、二五〇平方メートル(但し、市街化調整区域のもの)が代金一平方メートル当たり六、六五四円で売買され、次いで同年五月七日代金一平方メートル当たり六、九五九円で転売された。以上売買実例地の公法上の規制、自然条件、画地条件、接近条件、利用状況は別表(四)ないし(六)に記載のとおりである。

以上の事実が認められる。

(三)  前掲乙第一五号証の一、二、第二〇号証、成立に争いのない甲第三、第四号証、弁論の全趣旨によれば、交換取得土地のうち前記目録(二)の<7>ないし<10>の土地と近距離にある江南村大字小江川字沼端二、二二二番四宅地六六二平方メートルに係る昭和四九年度の国土庁土地鑑定委員会による地価公示価格は一平方メートル当たり二万一、五〇〇円であることが認められる。したがつて右地価公示地の昭和四八年度と昭和四九年度との地価公示価格の変動率を一三〇パーセントとして試算した場合には、右地価公示地の昭和四八年度の地価公示価格に相当する価額は一平方メートル当たり一万六、五三八円であるということができる。

(四)  当審証人山田浩の証言及びこれにより成立を認める乙第三九、第四〇号証によれば、大和土地建物株式会社は控訴人から交換取得土地の昭和四八年三月一二日当時における正常価格の鑑定評価の依頼を受けたが、昭和五七年六月二三日交換取得土地のうち前記目録(二)の<1>、<2>の土地の昭和四八年三月一二日当時における正常価格は計三、九〇六万六、〇〇〇円、同<3>ないし<6>の土地のそれは計二、八六四万六、〇〇〇円、同<7>ないし<10>のそれは計四、二七九万一、〇〇〇円、同<11>のそれは九九九万九、〇〇〇円であること、したがつて交換取得土地全部の昭和四八年三月一二日当時における正常価格は合計一億二、〇五〇万二、〇〇〇円である旨を鑑定評価したことが認められるところ、前掲乙第三九、第四〇号証、当審証人山田浩の証言によれば、右鑑定評価は右価格時点に近い昭和四七年九月ころから同四九年二月ころまでの間における川本村及び江南村における各売買実例約一二〇件を収集し、その中から中庸のもの各約三〇件を選び、さらにその中から短期間に転売されたものは投機的・思惑的取引によるものとしてこれを除外し、その余の川本村における五件、江南村における一〇件につき、それぞれ取引事例比較法の手法により試算価格を求めたうえ、交換取得土地の交通、接近条件、自然的条件、宅地化条件、行政的条件、画地条件、最有効使用につき検討を加え、交換取得土地の比準価格を求めたうえ、交換取得土地の価額を鑑定評価したことが認められる。

(五)  前記(一)ないし(四)の阪東商事が交換取得土地を取得した経緯、売買実例の存在、地価公示地の公示価格、大和土地建物株式会社のした鑑定評価の事実からすると、熊谷観光は昭和四八年二月ころ交換譲渡土地を買収取得する必要があつたが、阪東商事との間で三億円でこれを取得することを予定していたこと、阪東商事はこれを見込んで交換取得土地の買入れに当たつたが、その相手方である三協不動産らはいずれも本件交換取得土地の阪東商事への売却を奇貨として、ことさら高値に売進めたものではなく、それぞれ当時の相場によつて取引する旨の認識のもとに右売買をしたものであることが明らかであり、阪東商事とくにその取締役栗原金次と被控訴人の親密な間柄から見れば、阪東商事が本件交換において被控訴人に対し重大な損失を蒙らせることを敢えて行つたものと推認するのは困難であるから、阪東商事が交換取得土地を買い入れた取引は、当時の当該地域における正常な取引であり、したがつてその取引により形成された価額も客観的交換価値の範囲に入るというのが相当であり、これを不正常な取引であつて、右価額も異常なものということはできない。

そうすれば、阪東商事は昭和四八年二月二一日から同年三月二日までの間において三協不動産らから交換取得土地を買入れた取引は正常な取引の範囲にあるとみるのが相当であり、右取引において成立した交換取得土地の代金合計一億二、九四三万五、〇〇〇円をもつて交換取得土地の価額と認定するのが相当というべきである。

(六)  成立に争いのない甲第二八号証によれば、被控訴人は昭和五六年一〇月三日荻窪久男に対し前記目録(二)の<3>ないし<6>の土地を代金一、六三〇万八、〇〇〇円で売渡したことが認められるが、昭和四八年当時はいわゆる石油ショックによる経済動乱が起る以前の、全国的に土地売買等のブームを呼んで、土地価額が一般に高騰していた時期であり、これに対し、昭和五六年当時は右石油ショックによる経済動乱の結果右ブームが沈静化した時期であることは公知の事実であるところ、右経済変動の経緯を併せ考えれば、被控訴人が昭和五六年一〇月三日前記目録(二)の<3>ないし<6>の土地を代金一、六三〇万八、〇〇〇円で売渡した事実をもつて前示認定を覆えすことはできない。

また成立に争いのない甲第一〇号証、原審証人松村勝人の証言によれば、財団法人不動産研究所は被控訴人から本件交換取得土地のうち前記目録(二)の<1>及び<4>の土地の昭和四八年四月一日当時における価額の鑑定評価の依頼を受けたが、昭和五五年二月一日同目録(二)の<1>の土地の昭和四八年四月一日当時における価額は一平方メートル当たり二、〇二〇円であり、同目録(二)の<4>の土地のそれは一平方メートル当たり一、八二〇円である旨鑑定評価したことが認められる。しかし、前掲甲第一〇号証、原審証人松村勝人の証言によれば、右鑑定評価は昭和五四年二月ころの川本村における取引事例を収集採用し、これから取引事例比較法の手法により同目録(二)の<1>及び<4>の土地の昭和五五年二月の評価額を求め、さらにこれからその昭和四八年四月一日当時の右価額を鑑定評価したことが認められるところ、右手法は前示大和土地建物株式会社の採用した詳細精密な手法に比してより妥当性があるということはできないから、この事実をもつて前示認定を覆えすことはできない。

他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

四  以上の次第であるから、被控訴人の本件交換による収入金額は、金銭以外の物で収入した部分(交換取得土地)の価額一億二、九四三万五、〇〇〇円と金銭で収入した部分の金額二、五〇〇万円とを合計した一億五、四四三万五、〇〇〇円となる。

そして、右収入金額から長期譲渡所得の金額の計算上収入金額から控除する資産の取得費として租税特別措置法三一条の三に規定するところにより、当該収入金額に一〇〇分の五を乗じて算出した七七二万一、七五〇円及び特別控除額として同法三一条三項に規定するところによる一〇〇万円を控除すれば、被控訴人の昭和四八年分の譲渡所得金額が一億四、五七一万三、二五〇円となることは計数上明らかである。

また、国税通則法六五条の規定によると、本件更正処分により増加した所得税額(本件更正による所得税額二、一九四万四、三〇〇円と修正申告による所得税額四八一万〇、一〇〇円との差額一、七一三万四、〇〇〇円(一、〇〇〇円未満切捨て)を基礎として、これに一〇〇分の五の割合による過少申告加算税相当の金額は八五万六、七〇〇円(一、〇〇〇円未満切捨て))であることも計数上明らかである。

そうすれば、控訴人のした本件各処分は適法であるから、これを違法とする被控訴人の主張は理由がない。

五  よつて、被控訴人の本訴請求は失当であり、本件控訴は理由があるから、原判決を取り消し、本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条及び民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡垣學 磯部喬 大塚一郎)

(別表省略)

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